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東京高等裁判所 昭和52年(う)1147号 判決 1977年11月15日

被告人 宮内泰政 外二名

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

被告人宮内泰政の本件控訴の趣意は、弁護人大塚喜一と同本木陸夫とが連名で提出した控訴趣意書に記載されたとおりであり、被告人勝野健司の本件控訴の趣意は、弁護人高木正也提出の控訴趣意書に記載されたとおりであり、被告人半澤民雄の本件控訴の趣意は、弁護人鈴木稔提出の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これらを引用する。

第一各控訴趣意中、法令適用の誤りの主張について

一  被告人宮内泰政及び同勝野健司について

各所論にかんがみ検討してみると、原審で取り調べられた関係各証拠によれば、被告人宮内泰政及び原審相被告人江古勝夫が共謀の上原判示第五のとおり所持していた覚せい剤粉末〇・七八二グラムと被告人勝野健司及び原審相被告人江古勝夫が共謀のうえ原判示第四のとおり所持していた覚せい剤粉末一・二九八グラムとは、いずれも、右三名が共謀のうえ原判示第一のとおり輸入した覚せい剤粉末の一部にほかならないことが認められるけれども、右三名は以上のとおり輸入した覚せい剤粉末を小分けした上、その一部をビニール袋数袋に入れ、右ビニール袋入り覚せい剤粉末を、売却用、又は見本用として持ち歩いていたもので、原判示第四及び同第五の各所持はいずれも、その一環であつたことが明らかで、このような所持は、輸入した覚せい剤をそのまま保管している場合とは異なり、輸入罪の継続犯もしくは吸収犯として不問に付せられるべきではなく、これと別個独立の所持罪を構成し、両者は刑法四五条の併合罪の関係に立つと解すべきものであるから、原判決が被告人宮内泰政の原判示第一の罪と同第五の罪、及び被告人勝野健司の原判示第一の罪と同第四の罪とは、いずれも刑法四五条前段の併合罪であるとしたのは正当であり、原判決には法令適用の誤りはなく、各論旨はいずれも理由がない。

二  被告人半澤民雄について

所論にかんがみ検討してみると、営利の目的をもつて覚せい剤を本邦に輸入しようとしている者に対し、この者が右のような計画をたてているのを知りながら、右輸入のため資金を貸与し、これにより被貸与者の覚せい剤輸入を容易ならしめ、その結果被貸与者において覚せい剤を輸入した場合においては、資金貸与者は覚せい剤取締法四一条の七所定の資金提供者の刑責を負うものではなく、同法四一条一項一号、二項所定の覚せい剤輸入罪の従犯としての刑責を負うもので、同法四一条の七の規定はこの場合適用の余地がないと解すべきである。けだし、同法四一条の七の規定は、覚せい剤輸入者やその従犯に対する処罰だけでは覚せい剤の取締に実効が十分でないことにかんがみ、右取締の強化を目的として追加されたものであるところ、その法定刑の長期及び短期がいずれも同法四一条所定の刑の半分にも達しないことを考慮すると、覚せい剤輸入罪の従犯に対する処罰に代えて新設されたものではなく、これに付加して、たとえば被貸与者が輸入をなすに至らなかつた場合などにも、資金貸与者を処罰することを定めた規定であると解すべきものであるからである。ところで、被貸与者において覚せい剤の輸入をとげた本件の事案において、被告人半澤民雄に対する公訴事実につき、原審訴訟手続において行われた訴因変更手続、すなわち、覚せい剤輸入に要する資金の提供という訴因を覚せい剤輸入の従犯という訴因に変更した手続について、一件記録に基づいて検討してみると、なるほど、検察官の訴因変更請求に対し、同被告人やその弁護人が異議を述べたけれども、防禦の準備のため公判期日の延期や続行又は公判手続の停止(刑訴法三一二条四項)を求めたことはなく、右訴因変更により同被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞があつたとは認められないことが明らかであるから、右訴因変更手続には何ら違法不当のかどはなく、又、原判示の第二の所為が刑法六二条一項、覚せい剤取締法四一条一項一号、二項に当たるとした原判決の法令の適用に誤りはないから、論旨は理由がない。

第二各控訴趣意中、量刑不当の主張について

各所論にかんがみ一件記録を精査検討してみると(被告人勝野健司及び同半澤民雄については、更に当審における事実の取調べの結果をも併せて考えてみると)、被告人宮内泰政、同勝野健司及び原審相被告人江古勝夫は、遊興費を得るため、覚せい剤を密輸入して、これを売り捌き、利益をあげようと企て、右計画に基づき、被告人宮内泰政は覚せい剤の輸入ルートを探し出し、同勝野健司は同半澤民雄に資金を貸してもらいたいと申し込み、同半澤民雄は、手許に六〇〇万円位の資金がありながら同勝野健司からの金もうけの話に目がくらみ、秋本紳次とじつ懇の間柄で同人から相当額の融資を受け得る状態にあるのを利用し、同人から八〇〇万円を借用し、原判示第二のとおり一四〇〇万円の多額の現金を覚せい剤輸入資金として被告人勝野健司に貸与し、同被告人及び同宮内泰政は右一四〇〇万円を用い、原審相被告人江古勝夫と共に原判示第一のとおり合計三〇〇グラムもの大量の覚せい剤粉末を輸入し、原審相被告人江古勝夫が右覚せい剤の運搬や販売を引き受けていたことに照らすと、被告人三名の各犯情は良くなく、他面、被告人三名は、同半澤民雄が交通事件で罰金刑に処せられたこと以外にはこれまで前科前歴がないことなど各所論が指摘する諸事情を十分しんしやくしても、被告人宮内泰政及び同勝野健司をいずれも懲役三年の実刑に処し、同半澤民雄を懲役二年及び罰金二五〇万円に処し、右懲役刑について三年間刑の執行を猶予した原判決の各量刑はいずれもやむを得ないものと判断され、重過ぎて不当であるとはいえないから、各論旨はすべて理由がない。

よつて、刑訴法三九六条により本件各控訴を棄却することとして、主文のとおり判決をする。

(裁判官 寺尾正二 山本卓 杉浦龍二郎)

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